研究課題/領域番号 |
09610043
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
三島 憲一 大阪大学, 人間科学部, 教授 (70009554)
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研究分担者 |
細見 和之 大阪府立大学, 総合科学部, 講師 (90238759)
木前 利秋 大阪大学, 人間科学部, 教授 (40225016)
山口 節郎 大阪大学, 人間科学部, 教授 (30061964)
徳永 恂 大阪国際大学, 教授 (70027952)
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キーワード | アドルノ / 文化産業 / 『否定弁証法』 / 非同一性 / ベンヤミン / 批判理論 |
研究概要 |
本年度の研究において、アドルノの『否定弁証法』および『美の理論』の成立の背景について資料にもとづいて詳細な考察がなされた。研究分担者全員が集まって、ベンヤミンとの往復書簡、道徳哲学やカント哲学についての講義との関連、またヴィーン時代のアドルノの現代音楽の学習の仕方、さらにアメリカでのジャズについての発言、そして30年代の表現主義論争への対応などを検討した。その結果とりあえず確認されたことは、表現主義についてのベンヤミンとまったく異なった理解が、ジャズその他の文化産業に対する否定的言辞と絡んでいることである。つまり大都会のメディア化された現実や大衆社会の諸現象に対する抗議でもあった表現主義から引き裂かれた自我の声を、<損壊した自我>の叫びを読み取ろうとするアドルノに対して、ベンヤミンはそのような抗議の土台となっている市民的自我や教養にいかなる意味もおかなかった。そのことが個人を越えた都会の神話や夢に、またもはや個人とは言えぬ遊歩者や、その視線が向かうモードやマネキンに目を向けさせ、また映画芸術や可能性に注目させる原因となった。この相違はアドルノも十分に気がつかないままに、『否定弁証法』や『美の理論』における、芸術の商品化へのともするとナイーブな批判につながる。カントに形而上学者を読み取る場合でも、自我を捨象しているベンヤミンと異なり、形而上学的衝動にショーベンハウア-的な慰めを見ようとする結果をももたらす。問題は、こうしたアドルノの面と、社会学者として個別研究にも関わった面とが、どのように理論的に縫い合わされているかである。その点を実証主義論争におけるアドルノの議論からある程度明らかにすることができた。
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