本研究は、近代中国における子ども観の形成過程を歴史的、社会的に分析し、当時の子ども観の諸相を明らかにするとともに、それを通じて、中国における人のあり方、家族、社会の特質を逆照射することを目指したものである。本年度は、研究計画の最終年に当たるため、9年度、10年度の研究計画の補完、補充を含めて、主として以下の項目についての研究を遂行した。 (1)民国期、本格的な展開期に入った中国近代の子ども観は、儒教倫理に基づく家族の子どもから、社会に解き放たれた社会的存在としての子どもへと転換していく。とくに、1920年代、家族改革論、女性解放論の隆盛のなかで、子どもを女性解放の枷と見なす公育論が登場する。同時期に展開する新教育運動の生み出す自立的子ども観との、矛盾、共存の状況を考察した。 (2)1930年代、戦乱の中で流浪する子どもは、「家の子ども」「育てられる子ども」に対して「育ちゆく子ども」を生み出して行く。大人たちの子どもへの関わりを反映する子ども救済策-孤児院における子どもたちと、さらにその枠組みを越えて、自力で行きぬく子どもの様相を補充考察した。特に、後者にあたる『子ども劇団』の子どもたちの存在に注目した。 (3)観念的な子ども観の形成と社会的歴史的構造のなかに置かれた子どもの存在状況との関係性について、分析視点を深化するための理論構築を行った。
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