研究最終年度に当たる平成11年度は、竹田が下村寅太郎研究において、島雄が田辺元研究において、それぞれ大きな成果を挙げた。前者に関しては、昨年、『下村寅太郎著作集』全13巻(みすず書房)が11年の歳月を経て完結したが、最終巻(「エッセ・ビオグラフィック」)の編集は竹田がこれに当たり、多方面にわたる既刊・未刊の資料、数々の未定稿を校訂のうえ収録、「著者をして著者自身を語らしめる」本巻を完成させ、さらに「下村寅太郎の百年」と題し、詳細な「年譜」と「著作目録」を付した(「著作目録」は井上達三氏の手になるが、竹田と島雄が援助)。「年譜」は、文字通り百年になんなんとする下村の生涯を時代背景を踏まえて作成し、下村邸において「発掘」された多くの資料を活用した。ひとり下村にとどまらず、われわれの主題である「京都学派」の生成と展開を目の当たりに示す本研究の白眉の業績である。 他方島雄は、膨大な田辺の「受信」書簡の整理・分類・複写の作業をようやく完了し、さらに、それらを基にして、精細なリストを作成した。これによって、田辺元なる一人物を通じ、大正・昭和の日本文化史の一側面が明確に浮き上がってくる。竹田の「野上弥生子へ宛てた田辺元の手紙--北軽井沢大学村から--」は、この成果の恩恵による一報告である。しかしいずれにせよ、「資料」を活用した「研究」は今後に俟たなければならず、総合報告に関しては、延期を申請する予定である。
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