本研究の作業は、二つの部分に分かれる。一つは当該期における欧米フェミニズムの動向の把握であり、もう一つはそれらの日本への導入形態である。本年度は両者を並行してすすめ、前者についてはこれまでの実績をふまえて研究発表に重点をおき、後者については資料の収集・整理をおこない、専門家からの専門的知識の提供を受けた。 欧米フェミニズムの動向としては、論文「イギリス協同組合におけるジェンダー摩擦-女性協同組合ギルドの思想と活動1883-1921」(1)、(2)を発表した。女性協同組合ギルドは、19世紀末から20世紀中葉までのイギリスで、労働問題、消費生活、社会福祉、セトゥルメント、女性参政権にわたる広範な運動を展開した組織で、その分析は当時の女性の課題を理解するには不可欠と考える。また、この時期から台頭する社会福祉の要求とその意味を把握するために、論文「福祉国家の思想とフェミニズム--20世紀前半のイギリスを中心に」、日本との関連で、国際シンポジウムでの報告「転機を迎えた日本の社会政策」を発表した。 日本に関しては、国立国会図書館編『婦人問題文献目録 大正期・昭和戦前期』のうち、翻訳文献を抽出してNational Union Catalogueと照合し、原書を確認する作業をほぼ終了した。文献の収集については、復刻版の叢書、古書、洋書を購入した。高知市在住の日本思想史の研究者外光広氏および大木基子からは、山川菊栄、福田英子など、明治末期から昭和初期にかけての文献、知識についての提供を受けた。来年度は、文献の収集・整理をすすめると同時に、内容の分析にはいりたい。
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