本年度は、女性参政権の思想に重点をおいて研究をすすめた。日本における女性参政権の思想の受容は、明治期と大正期とではやや性格を異にし、自由民権運動の時期には功利主義的立場に立つJ.S.ミルの『女性の隷従』やハーバート・スペンサーの『社会静学』が翻訳され、大正デモクラシーの時代には人権思想を土台とするイギリス、アメリカの女性参政権運動の強い刺激を受けた。では功利主義と人権思想は、女性参政権の要求のなかでどのような関係にあるのか。現代の西欧の研究でも、この点は必ずしも明確にされてはいない。本研究では、両者をつなぐ環として、ミルの妻であるハリエット・テイラーの存在に着目し、「リベラル・フェミニズムの再検討--ハリエット・テイラー『女性参政権』を中心に」として発表した。日本では、テイラーの紹介はほとんどなく、それに代わる論争もおこなわれなかったようである。日本の女性参政権思想における理論的整理の欠落の意味については、近く発表する予定である。 社会福祉の思想についても、こうした観点から研究をすすめたい。 資料収集については、国立国会図書館所蔵の文献のマイクロフィルムを購入し、さらに同図書館に出張して蔵書を閲覧し、コピーを入手した。また前年度に引き続き、本研究に関するイギリスの雑誌論文の整理をすすめ、ほぼ終了した。
|