この研究の目的は、バウムガルテンの『形而上学』の第1版(1739年)から第4版(1757年)までの比較を通して、美学の成立過程を明らかにすることにある。 いまだにバウムガルテンの『形而上学』には批判的・歴史的版本が存在しないので、それを編纂することが必要となる。本年度は、第3版のテクストのデータ・ベース化をほぼ完了し、次年度における諸版の照合を通しての批判版の作成のための基礎作業を行った。 さらに、11月にはドイツのヴォルフェンビュッテルのヘアツォ-ク・アウグスト図書館(18世紀研究の中心地の1つ)において、所長のゾルフ博士、同図書館の研究員エンゲル博士、ツォイヒ博士より研究上の教示を受けた。とりわけ、メンデルスゾーンの専門家であるエンゲル博士と、ヘルダーの感覚理論の専門家であるツォイヒ博士からは、バウムガルテンの影響に関して多くの重要な示唆をえた。同時に、バウムガルテンの第1論文である『詩のいくつかの条件についての哲学的省察』(1735年)が当時の人々によっていかに受容されたかを示す論考を、同図書館所収の当時の雑誌(1742年刊のグリーフヴアルト『批判の試み』)から収集した。この論考はバウムガルテンの第1論文への匿名の書評であるが、この書評から、バウムガルテンの「美学」の構想がすでに当初から多くの批判や賛同を引き起こしていた、という点が明らかとなる。こうした批判に対してバウムガルテンがいかに対応し、自らの美学の構想を確立していったのかは、次年度の研究の課題となる。
|