今年度は、地方の寺社や博物館が所蔵する雅楽古楽器の状況確認を主として行った。その中で、調査の必要性の高いものから順に現地調査を開始したが、中では京都府日吉町で現在も使用している鼓が、雅楽から能の大鼓胴に至る過渡期の遺物として注目された。同町では、室町期に盛んに行われた「羯鼓スリ」という民俗芸能を伝え、その中でこの鼓胴を用いているのだが、芸能の盛行年代がこの鼓胴の製作時期を決定するひとつの要因となりそうだ。また、日吉町の鼓胴と素材、寸法や形態がほとんど同じものとして、奈良県石上神宮や香川県神谷神社が所蔵する鼓胴が挙げられるが、過渡期の楽器とはいえある程度規格が固定していた事は興味深い。一ヶ所で大量生産され、各地に流通していた可能性も考えておきたい。 また兵庫県神戸市太山寺の羯鼓には、白鳥と紅花を交互に描く華やかな文様が描かれていたが、その簡素化したものが大阪府河内長野市金剛寺の羯鼓にも見られた。太山寺の羯鼓は桃山期の製作と推定されるが、今後同時期の作例を調査して、一時代の特徴、流行としてこの文様を位置づける方向を探りたい。 本年度の成果としては、日吉町の調査結果を踏まえて、研究代表者高桑が、「日本の美術383舞楽装束」に「舞楽の楽器-その意匠と展開-」と題して寄稿した。
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