研究課題
今年度も、昨年度に引き続き地方の寺社に残された鼓胴の実地調査をおこなった。なかでも興味深かったのは、沼名前神社蔵の鼓胴である。この研究グループでは雅楽から能楽の大鼓胴に至る過渡期の遺物を何点か発見してきたが、今まで発見した鼓胴は黒漆を施しただけの簡素な加飾であった。ところが沼名前神社の鼓胴は、その上に蒔絵も施してあり、過渡期の鼓胴を能楽用に転用したと認められるものであった。この鼓胴の形態は大鼓然としているのだが、法量は完成期の小鼓に近く、小鼓が大鼓から派生した可能性もうかがわせる貴重な遺品である。また、春日大社に所蔵される沈金蒔絵小鼓胴の調査もおこない、前年調査した大倉家伝来名品中の沈金蒔絵大鼓胴と一対であることも判明した。大鼓の所蔵者と小鼓の所蔵者は一緒の舞台に立つ演奏家だったのが、楽器も揃えていたわけである。そのほか丹波篠山能楽資料館では、大鼓風の座をもつ小鼓胴など、過渡期の鼓胴を調査した。調査結果は報告書として作成し、今年度中に提出予定である。
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