3カ年にわたる研究の最終年にあたる本年度(11年度)においては、研究の取りまとめを念頭に置きつつ、引き続き、作品の比較検討とそのための資料分析とを慎重に行って、青木とマレーとの関連、並びに、原田とドイツ19世紀末絵画(とりわけ、ベックリーン、ライブル)との関連を追究した。原田の≪騎龍観音≫については、すでにベックリーンとの関連が指摘されている。原田の≪靴屋の阿爺≫については、いまだ明確な比較例を見ないが、例えば、クールベにもつながるライブルの≪画家カール・シューフの肖像≫(1876、ミュンヘン、ノイエ・ピナコテーク)を挙げられるのではなかろうか。青木の≪海の幸≫についても、すでにマレーとの関連が軽く触れられている。この≪海の幸≫との結びつきが濃い青木の≪漁夫晩帰≫については、あまり注目されない点ではあるが、すでに正宗得三郎が「メランコリーの独逸人の如く」と評している(『青木繁畫集』、大正2年所載)ことは、考慮に値する。というのも、≪漁夫晩帰≫にとどまらず、≪海の幸≫とドイツ美術との関連を示唆することになるからである。 ≪海の幸≫とマレーとの直接的な結びつきを考える際の接点ともいうべき、マレーの当該作品の図版が載った書籍・雑誌等の追究については、さらに調査を要する。
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