本研究は院政期仏画における図像の継承と変容に関し、神護寺蔵釈迦如来像、奈良国立博物館保管十一面観音像、豊乗寺蔵普賢菩薩像、東京国立博物館保管虚空蔵菩薩像を通して考察したものである。これら諸作品はいずれも図像細部の諸形式に古様をとどめており、前代の原図像をよく継承していると考えられた。 神護寺本は、高い肉髻や面長な輪郭、肩幅が広く腰が締まり膝張りの広いプロポーション、さらに右手の縵網相や左脇の渦文に古様が認められる。他方、光背の金銅製透かし彫りのそれを模した意匠や俯瞰角度の大きい裳掛けの蓮華座には院政期の好尚が指摘される。奈良博本は、既に指摘されているように唐本図像に基づくとみられ、豊乗寺本は、奈良博本と共通する肉身の描法が認められることから、同様に請来図像に基づくと考えられる。東博本は、同じ図像に基づく鎌倉時代の醍醐寺蔵虚空蔵菩薩像が原図像を比較的忠実に転写しているのに比して、院政期図像の造形的変容の様相を端的に示している。尊像の頭部の小さい撫で肩のプロポーション、面貌の細い眉、伏せぎみの目や低い肉髻、薄い垂髪、豪華な瓔珞、裳掛け座等に、穏やかさや装飾性を志向した院政期仏画通有の形式が認められる。金銀と寒色を多用し、月輪をおぼろな銀泥の暈で表した色感もこの時代の好尚を反映したものといえよう。 院政期仏画における図像の継承と変容との二面性の発現は、寺家と公家という二つの制作主体の志向に求められると推測されるが、それらの系統的理解については今後の課題となっている。
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