研究課題/領域番号 |
09610066
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研究機関 | (財)元興寺文化財研究所 |
研究代表者 |
山内 章 (財)元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (90174573)
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研究分担者 |
高橋 平明 (財)元興寺文化財研究所, 人文考古学研究室, 研究員 (60261210)
菅井 裕子 (財)元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (20250350)
雨森 久晃 (財)元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (70250347)
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キーワード | 戦後日本画 / 絵具層 / 剥離 / 厚塗り彩色 / 制作技法 / かび / 変色・褪色 / 剥落止め処理 |
研究概要 |
10年度に続き日本画作品の保存状況(破損・劣化)と制作技法に関する調査を行ない、次の所見を得た。 a.最も多い破損状況は絵具層の亀裂、剥離、剥落であり、絵具の過度な塗り重ねや箔押し下地に絵具を塗り重ねて作画した作品に多く認められた。 b.制作時の環境(特に過乾燥)が絵具の剥離原因と考えられる作品が見られた。 c.細粒の岩絵具を塗り重ねた作品に絵具の固着が弱く粉状化している箇所があり、膠の浸透性・粘度・濃度と絵具の比重との兼ね合いで、制作後まもなくの作品であっても粉状剥落を生じる可能性があることを認めた。 d.展示品を含む作品に「かび」と思われる付着物または斑点状のシミ(Foxing)が見られた。岩絵具を塗り重ねて作画した作品では、絵具が盛り上がった箇所(彩色表面に膠が溜まっている)にかびの繁殖が認められた。Foxingは比較的薄塗りの作品に見られたが、水銀朱や岩緑青の彩色箇所を避けて繁殖しており、これらの顔料に抗菌性があるのかもしれない。 e.絵具の変色・褪色については、銀箔の色面がある作品と朱下地に岩絵具を塗り重ねた作品に変色を認めた。銀箔の変色は画面に塗布したどうさに起因すると推測できる。朱下地彩色の色変化については、研究代表者が制作した朱下地に岩絵具を塗り重ねた作品が、制作時よりも黒っぽく発色していたことで、原因は今のところ推断できない。 f.高温高湿度下において、朱下地を用いた新岩絵具のテストパネルの変色を確認しており、硫化物が生成し黒っぽく変色したと推測できる。 以上のように、絵の破損や劣化は制作技法や材料に起因することが多く、戦後日本画の特徴的な制作技法である厚塗り制作が、作品の保存面では多くの問題を含んでいることを確認した。また制作環境や保管状況の起因する破損・劣化は、過乾燥による絵画面の破損と、高温多湿環境に置かれた作品のかびの繁殖が最も多い事例であったが、これは注意すれば回避できる害であるとともに、逆に少しの油断から発生する害でもある。 損傷した作品の保存修復については、戦後から現代に至る日本画では厚塗り彩色の剥離・剥落が最も多い破損事例であり、かつ、厚い絵具層故に修復も難しい場合が多い。当該研究では、この厚塗り彩色の剥落止め処置を効率的に処置できる剥落止め修復機を試作した。
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