本年度は、報酬の不確実性という課題の行動経済学的特徴が人間の選択行動に及ぼす効果を分析するための実験的研究が行われた。具体的には、報酬が1以下の確率でランダムに与えられる場面(つまり、報酬が確率的に間引かれる場面)と報酬が1の確立で毎回確実に与えられる場面において、巨視的に見た場合の選択肢のコストを系統的に操作した場合の成人の選択行動が確実的に分析された。その目的は、報酬の不確実性が合理的な選択からの逸脱に及ぼす効果を系統的に分析することにより、従来の研究において見いだされてきた合理的選択からの逸脱現象を行動経済学に分析するための基礎データを収集することであった。その結果、巨視的な視点に立ってコストパフォーマンスの計算をすることのできる成人の被験者であっても、報酬の提示が不確実である場面においては合理的な選択からの逸脱を示すこと、および、そのような合理的選択からの逸脱は報酬の提示確率が1から逸脱するにつれてより大きくなることが見いだされた。そのような合理的選択からの逸脱現象の原因としては、「場面に対する選好な微視的な変動」が考えられるかもしれない。つまり、一方の選択肢で報酬が与えられなかった場合にその選択肢が一時的に嫌悪されるために、巨視的な最大化を行うことができなくなる、という仮説により説明することができる。また、不確実場面であっても自分だけは幸運な結果をえることができるという「楽観的思考」の要因や、不確実場面であっても自分だけは場面を制御して報酬を得ることができるという「制御の錯視」の要因がそのような合理的選択からの逸脱の原因であるかもしれない。そこで、次年度は、それらの仮説を検討するための実験的研究が行われる予定である。
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