今年度は、視覚的に提示される刺激のセットとして、前年度に引き続き、顔写真を用いた学習実験と、3次元物体が配置された仮想的な空間を移動することによる地図の学習実験を実施した。 1. 合成顔写真の再認実験 まず、刺激として用いる顔写真を合成した。元になる24枚(男性12枚、女性12枚)の顔写真を目、鼻、口、髪の4属性に分け、それらの属性を組み合わせ、合成顔写真を作成した。合成顔写真が相互にどの程度類似しているかを被験者に評定させ、多次元尺度構成法により、各合成顔写真を3次元の尺度で表現した。この3次元の尺度空間において顔写真間の距離を求め、クラスター分析を施し、相互に類似した合成顔写真のクラスターを作成した。ほぼ同一のクラスターに属する合成顔写真を用いて、記銘、再認実験を行った。その結果、顔の再認においては、各属性は比較的独立に手がかりとして用いられる傾向にあること、および属性の中では髪が最も大きく寄与していることが明らかにされた。 2. 地図の学習実験 地理的な状況についての知識は認知地図と呼ばれるが、本研究では、未経験の地理的知識が認知地図として形成される過程を検討した。この実験では、仮想的な街路と公園をコンピュータ上で構成し、それぞれについて、ディスプレイで提示・文章で提示、出発点から目的地まで歩く視点・上空から眺める視点、の2要因を設け、それらの要因によって認知地図の学習に差が認められるか否かを検討した。その結果、ディスプレイと文章とでは、ディスプレイ提示のほうが早く学習されること、歩行と俯瞰とでは、俯瞰視点のほうが早く学習されることが明らかにされた。また、街路と公園とでは、公園の学習のほうが容易であったが、両者間の構成要素の数、想定された面積規模に差があるため、直接の比較は困難であった。
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