研究概要 |
今年度は,前年度に引き続き,3次元物体が配置された仮想的な空間の地図の学習実験を行うとともに,写真の大きさに関する再認実験を実施した. 1. 地図の学習実験 構造的に類似性の高い仮想的な街路を2種類用意し,それらを1.2m×0.9mのスクリーンに投影して,被験者に6回くり返し観察・学習させた.街路の提示視点として,歩く状態に近い経路提示,上空からの観察に近い俯瞰提示の2種類,提示する視野として広,狭の2種類,テストの手がかりとして経路手がかりと俯瞰手がかりの2種類を設けた.3回のテストを行った結果,(1)6回の学習によって正答率は約25%向上すること,(2)正答率は学習とテストの間で提示の視点が一致する場合のほうが不一致の場合より高いこと,(3)経路提示では視野が狭い方が,俯瞰提示では視野が広いほうが正答率が高いこと,が明らかになった. 2. 写真の大きさの再認実験 被験者に写真を観察させ,後に同じ写真を拡大あるいは縮小したテスト写真を提示し再認を求める場合,拡大ではなく縮小写真が選択される傾向がある.縮小傾向は被写体に対する背景の効果と言われている.この実験では,対象の物理的大きさと縮小傾向の関連を検討した.家具,衣類,家電,楽器の4カテゴリーから大,中,小の3つの対象を,大きさの不定な抽象彫刻から3つの対象を選択した.これらを同じ大きさになるように拡大縮小し,背景の有無により2種類の学習写真を作成した.被験者は15枚の写真を1枚15秒ずつ観察し,直後に提示されるテスト写真に対し,「小さい」を1,「大きい」を5とする5段階評定を行った.その結果,背景があり,学習写真と同一のテスト写真の場合,被験者の判断の誤りは「大きい」ほうに偏る傾向,すなわち学習写真の縮小傾向が認められた.この傾向は,対象のカテゴリーごとの物理的大きさに依存することが明らかにされた.
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