方向が異なる2つの形態の異動を判断するとき、イメージ回転によって方向を揃える場合とイメージ回転を行なわない場合のあることが知られている。Takano(1989)は、独自の「情報タイプ理論」に基づき、鏡像弁別が必要とされる場合には、イメージ回転などの方向変換操作が必要となることを示し、実験的な検証を行なった。その後、Cohen & Kubovy(1993)は、素早い反応を行なうように圧力をかけた場合には、鏡映弁別が必要とされる場合にもイメージ回転が生じないことを示し、こうした場合には、方向に縛られない形態表象が形成されると主張した。本研究においては、Cohen & Kubovy(1993)の追試を行なうとともに、同一形態の表象が複数の方向において形成されるという可能性を探るために、複数の方向で形態の学習を行ない、その効果を検討した。実験の結果、イメージ回転の有無は、素早い反応を行なうようにという圧力とは無関係であり、Cohen & Kubovy(1993)の結果は追試されなかった。圧力をかけなくてもイメージ回転が生じなかった場合があったが、内観報告などから推定すると、1個の形態しか提示されなかったため、被験者が特徴間の方向関係を記憶し、それに基づいて、イメージ回転とは別の方法で方向変換を行なったものと考えられる。また、学習の効果も認められなかったが、特徴間の方向関係を記憶するという方略を採った場合には、イメージ回転を行なう場合とは異なり、基準となる方向の影響は現れないので、どの方向で形態の学習を行なったかということが実験結果に影響を及ぼさなかった者と考えられる。
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