研究概要 |
昨年度実施した左右反転めがね2週間着用実験で集録したリーチング行動の動作画像を,当該科研費で導入したビデオ解析システムを用いて分析した.視覚目標点あるいは音源へ向かって速やかに手を伸ばす課題で,目標提示時点から画像を30分の1秒単位で分析し,逆さめがね着用日数(着用日数14日間)の進行につれて手の運動軌跡がどのように変化するかを検討した.その結果を,日本心理学及び日本基礎心理学会において発表した. 特記すべき点は,指標へのリーチングと音源へのリーチングの反応様式がまったく異なったことである.順応が進むにつれ,視覚指標に対しては,逆さめがねを通して見えるはずの位置(作業は閉眼で行う)ヘリーチングするというパターンへ収束していったが,音源に対しては,日数が経過するにつれ,どこへ手を伸ばせばよいのか捉えられなくなっていった.その結果,左右の音源へのリーチング成績は,チャンスレベルにとどまることになった.被験者の内観報告によれば,「日が経つにつれ,音源が点ではなく左右に広がって聞こえ,音源がどこなのか分からなかった」と言う.この報告は,刺激が提示されてからリーチングが開始されるまで潜時にも反映され,音源定位課題では,日増しに潜時が長くなった. また,目標への手の動きの詳細な分析から,視覚的に変換を被なっていない前方方向へはスムーズに手が進むが,変換を被っている左右方向では,途中,一時的に停滞や小さな逆戻りが混入することが見いだされた.定位運動のバリスティック性を,2次元で分解して捉える必要性を示唆する興味深い知見である. このたびの研究で行った左右反転めがね長期着用実験「金沢‘97」の概要は,金沢大学文学部紀要に公表した.
|