本研究は、顕在記憶遂行において重篤な障害を呈する健忘症患者を対象として、障害が及んではいない潜在記憶に焦点を当てたリハビリテーション・プログラムを開発し、そのプログラムの効果を実証的に検討することを目的とした。今年度はまず、先行研究の成果を踏まえ、記憶リハビリテーションのための理論的枠組みの構築を試みた。学習状況をモデル化するにあたり、相互に独立な2つの次元を仮定した。1つは、誤り喚起-誤り排除の次元であり、もう1つは、努力喚起-努力排除の次元である。2つの次元を交差させることにより、4つの異なる学習プログラム(生成、手がかり消失、多肢選択、対連合)を提唱した。実証的には、コルサコフ患者8名を対象に4つの学習プログラムの効果を比較検討した。日常生活面での適応という観点から最も重要な課題となる人名の記憶を材料として取り上げ、各学習プログラムごとに毎週2回2週間にわたる訓練(全体として8週間)を実施した。この結果、誤り排除型の2つの学習プログラム(手がかり消失と対連合)は、誤り喚起型の2つのプログラム(生成と多肢選択)に比べ、記憶リハビリテーションにとってより有効であることが明らかになった。しかし、努力要因に関しては、顕著な効果が認められなかった。努力要因の効果が現れなかった原因を究明すべく、現在、追加データの収集を計画中である。
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