ワーキングメモリは、情報の処理と保存が並列的に行われる記憶のプロセスを意味し、高次な脳機能の中核をなすものと考えられる。Baddeley(1986)による音韻的ループと視空間記銘メモのそれぞれの処理に対応したワーキングメモリを想定した実験データが蓄積されつつあるが、同時にその脳内機構の解明が必要であると考える。そこで、本研究では、音韻的ループと視空間記銘メモに対応した言語情報と空間情報処理過程でのワーキングメモリを生理学的実験データから検討することを目的とした。 平成9年度では、言語刺激(かな)と空間的刺激(ドット)の保持の下で、事象関連電位の測定を行った。そこでは、先行する記憶刺激と一致した条件(inset)と、先行する記憶刺激と一致しない条件(outset)条件とについて、反応時間と事象関連電位をそれぞれの条件ごとに測定した。 また、記憶刺激のセットサイズを、3桁と8桁に変化させて、セットサイズの増加に伴う事象関連電位のP300の変化を測定した。 結果、カナ刺激ではドット刺激に比較して、事象関連電位の300ms〜500msの潜時に、陽性方向に振幅の増加が認められた。また、セットサイズが3桁よりも8桁で、その傾向かいっそう顕著であった。 さらに、言語の情報処理と関わるワーキングメモリ容量の個人差を測定するため、リーディングスパンテストと記憶範囲テストの測定を行った。その結果、ワーキングメモリ容量の個人差によりP300振幅の出現部位に若干の差異が認められた。
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