本研究の目的は、言語情報と空間情報処理過程におけるワーキングメモリの脳内機構を、脳の生理学的基礎データから測定しようとするものである。Baddeley(1986)による音韻的ループと視覚・空間的スケッチパッドのそれぞれの処理に対応したワーキングメモリを想定した実験データが蓄積されつつあるが、同時にその脳内機構の解明が必要であると考える。そこで、本研究では、音韻的ループと視空間記銘メモに対応した言語情報と空間情報処理過程でのワーキングメモリを生理学的実験データから検討することを目的とした。 平成10年度では、ワーキングメモリ処理の下で事象関連電位の測定を行い、さらに事象関連電位のトポグラフィ測定をから、言語情報と空間情報のそれぞれの処理過程と対応した脳の部位の推定を行った。 言語刺激では、かな文字を刺激材料とし、空間刺激にはドットを刺激材料に用いた。そこでは、先行する記憶刺激と一致した条件(inset)と、記憶刺激と一致しない条件(outset)を設定して、さらに、記憶刺激のセットサイズを3桁と8桁に変化させた。 また、事象関連電位のトポグラフィ測定を行うことにより、言語刺激(かな)と空間的刺激(ドット)に対応したワーキングメモリの脳内部位の推定を行った。 結果、事象関連電位のP300は、言語刺激では、ドット刺激よりも振幅の増加が認められた。この傾向は3桁よりも8桁の方が顕著となった。 トポグラフィ測定から、P300の頭皮上分布は、前頭葉を中心として分布していることが分かった。また、このP300の電位の大きさは被験者により差があった。電位の増加はワーキングメモリ容量の大きい被験者に、特に前頭部位に限局して増大する傾向が、トポグラフィからも認められた。
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