研究概要 |
文法性判断において係留効果(対比効果)を見いだしたNagata(1992)に対して,Cowart(1994)は「係留刺激は文間にある文法性の判断パターン(文型間の文法性の差)に影響することはない」と批判した.この批判に応えるため以下の2実験を行った.刺激文として表層構造が類似し,かつ下接の条件を逸脱した2文型(主観文と非主観文)を係留文とtarget文として用いた.ここで,主観文,非主観文をtarget文にするという呈示条件,あるいは逆に,非主観文を係留文,主観文を非主観文target文にするという呈示条件を設定してみると,対比効果ではなく同化効果(target文の文法性判断レベルが係留文のそれに引きつけられる)が生じる可能性がある.両文型間にある文法性の違い(一般に主観文の方が非主観文より文法性の判断値が高い)が無くなる,ないしは両文型の判断値が逆転するという結果を得ることで,Cowartの主張を覆すことを目的とした. [実験1]2(係留文:有,無)×2(target文:主観文,非主観文)の要因計画(いずれも被験者間変数),各群16名での実験の結果,係留文が非主観文でtarqet文が主観文のときにのみ同化効果が得られた. [実験2]被験者の認知スタイル(場依存性)を実験1の課題条件と組み合わせた.2(認知スタイル:場独立的,場依存的)×2(target文:主観文,非主観文)の要因計画,各群16名での実験の結果,同化効果は場独立的な被験者では得られなかったが,場依存的な被験者では得られた. 以上の結果をもとに,統語論に係わる下接の条件を逸脱した文であっても係留効果が起こり,係留刺激によって文法性の判断パターンが変化することを明らかにした.
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