人間の3次元物体認知に関わる理論は、大きく、視点非依存と視点依存の2つのタイプにわけることができる。両タイプの理論を支持する心理物理実験を概観した結果、素材としている物体や実験手続きに基本的違いがあることが指摘された。したがって、両アプローチの実験が物体認知の異なったプロセスに注目してきた可能性があり、これを検討するために身近な物体のネーミング課題と新奇物体の学習再認課題を用いた二つの実験を行った。その結果、人間が脳内にもつ物体のプロトタイプは、部品構成に関する情報を豊富に含む表現ではあるが、視点不変的特性はある限られた範囲でしかもたないことが示唆された。そのため、プロトタイプが活性化された後で、観察した景観と一致度を回転によって確かめる検証過程が必要になることが指摘された。このように、物体認知にプロトタイプ活性過程と検証過程という機能や特性の異なる二つのプロセスを想定すれば、これまで議論されてきた視点非依存と依存理論の対立点を融和させることが可能になることがわかった。 また、3次元物体の認知反応時間は視点によって変化することが知られていが、本研究では、この事実は観察した景観を物体の典型的景観へと変換する心的回転の関与によるものだと考え、どのような経路にそって回転が施されるのかを検討した。有力な候補としてあげられた回転経路モデルは、最短経路にそった単一回転モデル、オイラー角にもとづいた2ステップ回転モデル群、環境座標軸まわりの回転を3種類組み合わせた3ステップ回転モデル群であった。認知反応時間との整合性を重回帰分析により検証した結果、観察者から物体を見たときの水平方向軸をX軸、垂直方向軸をY軸、奥行方向軸をZ軸とすると、「与えられた景観を、まずZ軸まわりに、つぎにX軸まわりに、最後に必要があればY軸まわりに回転を施して典型的回転に一致させる」というモデルがもっとも妥当性の高い心的回転経路モデルであることが示された。 さらに、3次元物体形状の良さ判断の規定要因について検討を行った.物体に対する可能なすべての視点の集合を視点球であらわし.視点球上でもっとも頻繁に現れる景観の出現確率を一般景観率と定義したところ.良さ評定値は一般景観率でよく予測できることが判明した. 最後に.物体認知の発達に関する研究を行った.乳児における物体の単一性(object unity)の認知は.低空間周波数成分を基礎としてなされることを明らかにした。
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