出生直後にアルビノラットの片眼を摘出すると、残存眼と同側の視覚神経路系に補償的再編成が生じることがわれわれの電気生理学的研究で明らかにされている。このような変化は、他の形態学的研究でも証明されている。われわれはこのような視覚系の再編成を行動学的に証明することに成功した。その手続きは以下のとおりである。出生直後に片眼を摘出されたラットが3ヶ月齢に達した時に白黒弁別課題を与える。学習成立後、残存眼と反対側の大脳皮質視覚野を破壊し、同じ白黒弁別課題を与える。そうするとこのラットは、3ヶ月齢で片眼を摘出されたラットに比べて有意に早く再学習が成立した。このような形で出生直後の片眼摘出の効果を行動的に捉えることに成功したのである。ただし、出生直後に片眼を摘出されたラットでも、3ヶ月齢で残存眼と反対側の大脳皮質視覚野が破壊された直後に白黒弁別の獲得を試みた時、弁別を獲得することができなかった。このような経過の中で本研究が計画された。幼若時に脳を破壊しておくとより大きな補償効果が得られるのではないかとの立場に立ったものである。具体的な手続きは以下のとおりである。生後3週齢で残存眼と反対側の皮質視覚野を破壊し、3ヶ月齢で白黒弁別課題を課す。同じ手続きを生後3カ月齢で片眼を摘出されたラットにも与える。その結果、3週齢で視覚野を破壊されると、出生直後に片眼を摘出されたラットばかりでなく3ヵ月齢で片眼摘出を受けたラットも弁別を獲得することができた。このように3週齢視覚野破壊が大きな効果をもたらすことが示された。これには脳損傷による神経栄養因子の多量放出が関与しているのではないかと考えられた。
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