平成10年度は、平成9年度の研究結果より導き出された情動的出来事を用いて本研究の主目的である事後情報の実験を行った。その結果、事後情報が出来事の系列において、逆向的な効果を持つ(特に情動群で)ことを示した。この結果を受けて、平成10年度は、さらに新しく、事後情報の提示を画像情報で行う実験計画を立案し、事後情報の提示のタイミング(オリジナルの出来事の直後、もしくは遅延テストの直前)を変化させ、以上の操作がオリジナルの出来事の記憶に及ぼす効果を検討した。また、再認テストの構成要素の類似性が記憶判断に及ぼす影響も検討した。結果は事後情報が遅延後の再認テストの直前に提示される条件で、記憶成績の低下が見られることを示した。また再認テストの類似性が高くなると、遅延条件の再認テスト前に事後情報を挿入した条件で、虚再認率が高くなることを見いだした。 さらに、新しいメディアの形態および事前事後の情報が提示される際のメディアのモダリティの交互作用を検討するために次のような実験も行った。すなわち、実際のニュース映像(視覚メディア情報)に、独自のナレーション(聴覚メディア情報)を施した実験用ビデオテープを作成し、それを事前情報として被験者に提示した。ナレーションに関しては、ニュース映像と内容が一致する条件、一部改変条件、完全不一致条件を設けた。被験者にはその後、ビデオテープの中から特徴的な場面を静止画像として抜き出して、再認テストを実施した。なおその際に、画像処理システムによりオリジナル画像の一部に変更を加えたフィラー刺激も合わせて提示した。結果としては、残念ながら、異なるモダリティにおける事前情報の一致性が再認成績を高めるという当初の仮説が支持されるような結果は得られなかった。しかし、この点はむしろ今後の研究を進める上での貴重な資料となった。
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