研究概要 |
第二言語の獲得において,特に数的処理は難しく,相当に長く徹底した第2言語での生活者あるいはバイリンガルであっても,数処理に関しては圧倒的に母語(優位語)に依存することが経験的に知られている.本研究ではその現象,すなわち数処理の母語依存性の実在を実験的に示すと共に,なぜ数に限って母語依存が生ずるのか,そのメカニズムについて検討することを目的として,一連の認知心理学実験を行った.実施した実験は大きく3つのカテゴリーに分かれる.第1は,数に対する命名/読み上げ課題に見られる母語依存性であり,反応時間を測定する4つの実験から「意味処理が課された場合にのみ,母語依存性が生ずる」ことが示された.第2は,ストループ様課題(干渉条件を含む命名課題)であり,そこで観察されるエラーについて検討を行った結果,数に限って「第2言語→母語」のエラーが検出され,数処理での母語依存性が母語からの干渉によるものである可能性を示唆した.第3の実験グループでは,聴覚提示による判断課題,すなわち入力刺激が言語情報である場合の母語依存性を検討する実験を行った.その結果,単純なカテゴリー判断(名詞か数かの判断)では母語依存は生じないこと,聴覚刺激と遅れて提示される視覚刺激との間のマッチング課題では母語依存性が得られるがSOA(刺激間間隔)によってその現われ方が異なること,2つの聴覚刺激の系列的大小判断課題では,数以外の刺激についても母語依存が得られたが,数に関してはより安定的な依存性が存在することが示唆されるなど,複雑な様相が示された.これらの聴覚提示実験については,今後さらに母語依存性の発生条件を同定していき,その結果から数処理と母語依存との関係についてモデル構築を行っていく予定である.
|