1.視対象認知記憶と空間記憶に関与する側頭葉内側部の中で、嗅内皮質が果たす役割について検討を加えるために、嗅内皮質がまわりの皮質(嗅周皮質や後部海馬傍回および連合皮質)や海馬体との間にどのような投射関係をもつかという解剖学的検討と嗅内皮質の摘除の視対象認知記憶と空間記憶に及ぼす効果を検討することを目的とした。 2.本年度は、ニホンザルの嗅内皮質、嗅周皮質、後部海馬傍回TF野に順行性標識物質として小麦胚結合西洋ワサビ過酸化酵素(WGA-HRP)とビオチン結合デキストランアミン(BDA)や逆行性標識物質の蛍光色素(ファースト・ブルー、ジアミヂノ、イェロウ)とWGA-HRPを注入し、嗅内皮質の持つ投射関係を検討した。 3.(1)海馬体との投射関係では嗅内皮質から歯状回に強い一方向性の投射が見られた。と同時に嗅内皮質から海馬CA1野ーCA3野にわたって強い投射が見られた。一方、嗅周皮質やTF野からもCA1野へのかなり強い直接の投射が認められた。(2)嗅内皮質は、嗅周皮質や後部海馬傍回のTF野、TH野、海馬前支脚や後部帯状回の23野と後脳梁膨大部皮質の29野、30野、島皮質、前頭葉、と相反性の投射関係が見られた。(3)嗅内皮質は更に聴覚連合野のTA野の前部、視覚連合野TE野の前腹側部からも弱いが直接の入力を受けた。(4)嗅周皮質とTF野は嗅内皮質との間の投射に部位局在対応関係が見られた。これらの皮質はそれぞれ対象認知に関与するTE野と空間認知に関与する頭頂葉のPG野と密接な投射関係をもつので、嗅内皮質が、視対象認知記憶や空間記憶に関与する可能性が示唆される。
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