視対象再認記憶と空間記憶におけるサル嗅内皮質の役割

1999 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 09610093
• 研究機関: (財)東京都医学研究機構
• 研究代表者: 靭負 正雄 財団法人 東京都医学研究機構, 東京都神経科学総合研究所, 研究員(主任) (20113491)
• キーワード: 視対象再認記憶 / 色の遅延見本合わせ課題 / 嗅内皮質 / 側頭葉内側部 / サル

研究概要

本年度は、嗅内皮質摘除を行い、すでに空間記憶(場所の遅延見本合わせ課題)におよぼす効果を検討したニホンザルを用いて、色の遅延見本合わせ課題(視対象再認記憶)に及ぼす効果を検討することを目的とした。
ウイスコンシン式一般行動テスト装置(WGTA)を用いて検討した。被験体には、嗅内皮質摘除後場所の遅延見本合わせ課題の再学習訓練を経験したニホンザル3頭(オス)を用いた。色を手がかりとする遅延見本合わせ課題は、術前場所の遅延見本合わせ課題を学習する前に訓練を受けていたので、術後再学習となる。課題には、45種類の色の単色カードを2枚づつ用意し、毎日、色の異なるペア30対を疑似ランダムに選び用意した。遅延時間を10秒とし、毎試行異なる色のカード対が使用される。試行間隔は20〜30秒で、1日30試行とし、連続100試行中90正反応以上をとるまで訓練した(但し、最大訓練試行数を1020試行とする)。学習基準達成後、30秒、60秒、120秒の遅延テストを各100試行課し、遅延効果を見た。
術前嗅内皮質摘除群は平均437試行で学習基準に達したのに対し、非摘除統制群(4頭)は平均455試行で基準に達成した。術前の学習は両群の間に統計的に有意な差はなかった。術後再学習では、非摘除群は平均120試行で基準に達したのに対して、摘除群は平均83試行で基準に達成し、両群の間に統計的な有意差はなかった。遅延テストについても、30、60、120秒の遅延時間に対して、非摘除群はそれぞれ81%、77%、75%の平均反応率を示したのに対して、摘除群はそれぞれ84%、78%、77%の平均反応率を示し、両群の間に統計的有意差は認められなかった。本行動実験結果は嗅内皮質は色の遅延見本合わせに重要な関与はしないことを示唆するものであった。しかし、嗅内皮質の摘除の範囲がどのようなものであったかは、今後の組織学的検索に待つ。

研究成果

• [文献書誌] Yukie, M.: "Connections between themedial temporal cortex and the CA/subfield of the hippocampal formation in the Japanese monkey (Macata Fuscata)"J. Comp. Neurol.. (in press). (2000)
• [文献書誌] Shibata, H. Konagaya, H. and Yukie, M.: "Comparison of the thalamocortical projections of the caudomedial lobule, area 23, and area 30 in Japanese monkeys"Soc. Neurosci. Abstr.. 25. 1559 (1999)
• [文献書誌] 靭負正雄: "ニホンザルにおける遅延反応課題に及ぼす嗅周皮質摘除の効果"第63回日本心理学会大会論文集. 63. 224 (1999)
• [文献書誌] Yukie, M., Konagaya, H., Shibata, H.: "Projections from auditory association cortex and polysensory cortex to posterior cingulate and retrosplerial corticers in Japanese monkeys"Neurosci. Res.. Suppl. 23. s265 (1999)
• [文献書誌] Matsui, M., Yamashima, T. Kumahashi, K., Yukie, M., Sugishita, M.: "Visual memory impaired by lesion of left perirhinal cortex"Neurosci. Res.. Suppl. 23. s291 (1999)