ニホンザルを用いて次の神経解剖学的検討と神経行動学的検討を行った。1.嗅内皮質にWGA-HRPや蛍光色素などの標識物質を注入し、海馬体における標識終末や標識細胞を観察、解析した。嗅内皮質は歯状回への投射と同時に海馬CA1-CA3野への強い投射を持っていた。他に嗅内皮質から海馬支脚やCA1'野への弱い投射もあった。嗅内皮質へ投射する海馬体ニューロンはCA1-CA3野および海馬支脚に多く分布した。これらの投射関係には部位局在対応関係が示された。また、海馬体から嗅内皮質への出力は、今回投射起始細胞の数からみて、海馬CA1野のほうが海馬支脚より強いと考えられた。2.嗅内皮質摘除の空間記憶課題の位置遅延見本合わせに及ぼす効果を検討した結果、10秒遅延の基本課題の再学習において軽い障害が見られたが、遅延テストでは障害はみられなかった。3.視対象再認記憶課題として色の遅延見本合わせ課題に及ぼす摘除効果を調べた。摘除後再学習と遅延テストにおいて全く障害は見られなかった。4.次に、関係記憶学習課題として、横断的パターン化問題(Transverse patterning problem)の学習に及ぼす効果を検討したが、全く障害はみられなかった。5.記憶負荷を高めるために2つの対照刺激による物体・風景写真刺激の遅延見本合わせ課題を用いて摘除効果を検討した。本課題の学習(遅延10秒)、120秒までの遅延テストでは障害は見られなかったが、15分遅延条件では障害が見られた。6.このように、嗅内皮質は、空間記憶の学習保持と記憶負荷の高い視対象再認記憶における長期の保持(少なくとも15分以上)に関与することが示唆された。しかし、これらの機能障害は、嗅内皮質から海馬体への入力遮断による可能性もあるので、今後、これらの課題に対する海馬損傷のよる障害効果を検討する必要がある。
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