研究概要 |
左半側空間無視患者は病識がなく多幸的で表面的な対応をするため,軽度でもリハビリテーション効果が上がりにくいといわれる.今年度はこのような右半球症状(課題に対する無関心な態度)は無視の重症度とは相関しないことを書字検査の結果から明らかにした.すなわち,左半側空間無視患者は類似した字画が連続した漢字を書く際に,その部分の重複や脱落などの特異な書字障害(空間性失書)を示すが,それは無視の重症度とは関係せず,むしろ右半球特有の何らかの症状が関与していることが示唆された. 今年度は右半球損傷患者が示す「課題に対する無関心な態度」を検出する鋭敏な検査として,いくつかの試案を作成して左あるいは右半球損傷患者各数例に実施した.1つは高齢の患者にとっても緊張感の少ない紙と鉛筆による検査(paper and pencil test)である.もう1つは視覚刺激をノート型パソコンによって患者に呈示し,反応を求める課題である.最初の検査は無視症状自体を利用しており,持続する無視症状の出現頻度が低い左半球損傷患者には不適切であるため,左半側空間無視患者群内での検討となる.2つめの検査は言語による教示や反応を最小限度にとどめるように配慮しており,失語症患者にも施行が可能である.いずれの手法を採用するにしても予備実験や年齢,学歴などを一致させた健常対照群のデータ収集などを行って課題の妥当性や難易度について検討する必要があり,来年度はこれらの作業を経て本実験を進める予定である.
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