研究概要 |
左半側空間無視患者はその障害に対する病識がなく,多幸的で表面的な対応をする。このため無視症状自体は軽度であっても,転倒などの事故をおこしやすく訓練への意欲不足のためにリハビリテーション効果が上がりにくいといわれる。このようないわゆる右半球症状はリハビリテーションの阻害要因であり,左半側空間無視とは独立した症状と考えられるが,これを鋭敏に反映する検査法はこれまで開発されていない。そこで客観的,数量的把握が可能な新しい検査法の開発が待たれていた。 本研究の目的は右半球症状を鋭敏に検出する検査の開発であり,この目的に適合する検査を数種類考案し,適用上の問題や妥当性に関して3年間にわたり検討してきた。第一の検査は空間的注意障害に起因するといわれる無視症状自体を利用しながら,患者に内在する非空間的障害を浮き彫りにすることを目的としたもので,検査の性格上右半球損傷患者を対象に実施した。第二の検査は類似の字画が連続した場合の書字においてみられる字画の重複や省略を検討したものである。これは従来,右半球損傷に起因する空間性失書として一括されてきた。本症状は無視の重症度に関連せず、それよりは本課題の目的である右半球症状あるいは注意障害を反映する可能性が高いことが示された。最後の検査は第二の検査によって得られた知見をさらに掘り下げるために考案したもので5課題から構成される。これらの検査は研究実施計画に基づいて開発と修正がなされてきた。 当初の予想通り,右半球損傷患者は視空間性課題が,左半球損傷患者は言語性課題が困難であるため,両群ともに実施可能な共通の課題の設定に苦慮した。しかし,第三の課題は刺激や反応様式の選択を工夫したため,両群に実施可能と考えられ,今後は症例数を増やして群間の成績比較や病巣の検討など研究の発展が期待される。
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