本研究は乳幼児とその母親の相互交渉にみられる情動的やりとり(communication)におけるの母子それぞれの特徴と母親自身の養育体験との関係についての実証研究である。方法として、45組前後の乳児とその母親について短期縦断的に追跡し、母親に対して面接や測定尺度(PBI)を用いて、母子間の情動的やりとりは実験室観察を行った。また、母子の特徴として、Qソート法や気質測定尺度(IBQ)を使用した。結果として以下のことが得られた。(1)母親の自身の幼児期の養育体験が現在の母子愛着関係と関連がある。特に養育体験における母親との関係が一次的作用を示唆した。(2)情動的やりとりにおける母親の方略は子の気質的特徴、特に初期の注意の持続と関係し、初期において児のぐずりなどに対する母親の「感覚的なだめ」はのちの母親の「なだめ」発話の多さ及び子どもの情動自己制御能力の低さと関連がある。(3)子どもの初期の注意の持続時間及び「微笑み笑い」とのちの、怒りの表出と関連する。結論として、乳幼児とその母親の情動的communicationにおけるそれぞれの情動制御のあり方は母親自身の養育体験特に自分の母親とのそれと無視できない関係があると言える。また、子ども自身の気質的特徴、特に初期の注意の持続時間と母親の子どもに対する情動制御方略、のちの子ども情動表出や情動制御能力などに決して単純ではない関係が示唆された。母子相互交渉における情動的コミュニケーションと愛着表象についての世代間伝達仮説は一応支持されたと考えるが、そのメカニズムや発達的関連の詳細は更に研究される必要がある。
|