コミュニケーションが効果的、適応的に行われるには、対人関係で他者が発するシグナルとしての感情表出、行動を的確に読み取り、そこから他者の感情を的確に推測できなければならない。従来の感情コミュニケーションの研究では、表情や姿勢等に研究の対象が集中している。また、他者を弁別的に取り扱った試みは、顔の感情表出研究で、友人かあるいは見知らぬ人と同席するかによって表出結果の検討を行ったもの等があるのみである。本研究の特色は、上述のような心理学の分野における感情研究の現況を鑑み、他者を親密度の違いによって弁別的に取扱い、他者感情の推測過程について検討を加えるところにあった。具体的な研究は以下のように行われた。予備調査において、全般的に感情推測が容易な感情を選定した。それらを刺激感情として、他者の感情推測過程を情報モニタリング法を用いて実験的に検討した。親密度の違いにより3種の他者(無縁、知り合い、親しい他者)を分類し、親密度の違った他者の感情を推測するために必要とする情報に違いがみられるかを検討した。本研究では次のような仮説が設定された。対人場面である感情が表される場合、負の感情にせよ、正の感情にせよ、知り合い他者に対してなされる際に、制御・抑制が最大であると考えられる。よって、3種の他者のうち、知り合い他者との間では、感情の推測をするのが相対的に困難であろう。つまり、知り合い他者の感情を推測する場合、最も多くの情報を必要とし、またその情報の内容もより詳細なものとなると考えられる。親しい他者については感情経験が共有されやすく、共感を持ちやすいので、感情推測に多くの詳細な情報を必要としないであろう。本研究で行われた実験の結果は、おおむね仮説を支持する傾向を示し、他者の感情の推測に他者との親密度の違いが影響する可能性が示唆された。
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