コミュニケーションが効果的、適応的に行われるには、対人関係で他者が発するシグナルとしての感情表出、行動を的確に読み取り、そこから他者の感情を的確に推測し、またその他者との関わりにおける自分自身の内的状態も把握する必要がある。従来の感情コミュニケーションの研究では、表情や姿勢等に研究の対象が集中している。また、他者を弁別的に取り扱った試みは、顔の感情表出研究で、友人かあるいは見知らぬ人と同席するかによって表出結果の検討を行ったもの等があるのみである。本研究の特色は、上述のような心理学の分野における感情研究の現況を鑑み、他者を親密度の違いによって弁別的に取扱い、感情反応・経験の評価過程について検討を加えるところにあった。本年度の具体的な研究は以下のように行われた。各種の刺激感情を用いて、感情の開示者としての自己の感情反応・感情経験の評価過程と自己が他者の感情開示対象となった場合の開示者についての評価過程を実験的に検討した。親密度の違い等により各種の他者を分類し、そうした他者の種類の違いが感情表出の制御や感情開示等、自己の感情反応・感情経験の評価および他者の感情反応の評価に影響を及ぼすかを検討した。本研究で行われた一連の実験の主な結果は以下のようになった。自己評価に直接関連する怒り感情喚起事態でも関連のない怒り喚起事態でも、中程度の親しさの他者との地位差が自己有能感に負の効果を及ぼした。また、感情開示反応については自己評価に直接関連する怒り喚起事態でのみ地位差の効果が示され、感情の開示対象としての他者の種類の違いの感情反応・経験への影響がみられた。また、負の感情の開示者についての評価における親密度の違いは優越、支配性の評価に影響することが示された。以上の一連の実験から対人関係での自己の感情経験の評価および他者の感情反応の評価に他者との親密度等の違いが各種の影響を及ぼす可能性が示唆された。
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