研究概要 |
本研究の目的は、幼児期から青年期までの子どもが、大人の権威や権限をどのように理解するのか(権威概念の発達)、規範や権威に縛られない個人の決定権をどのように意識化し概念化するのか(個人概念の発達)、および大人-子ども間のさまざまな社会道徳的葛藤場面において権威の受容と自己決定権の意志をどのように使い分けるのかについて明らかにすることである。過去2年間,幼児と小学生を中心に検討してきたが,本年度は高校生以上に対象を広げ,過去の成果の一般化を試みた。 (1)大学生の親子175組を対象に,親権威概念を調査した。大学生と親の領域判断は慣習領域で大きく異なっていた。つまり,大学生も親も道徳領域の違反を「絶対にしてはいけない」と判断し,個人領域の行為を「親が反対しても子どもの意志で決めてもよい」と判断していた。一方,慣習領域の行為に対して,親は「子どもの自由にならない」と判断したのに対し,子どもは「自分の意志で決めてよい」と考えていた。親子の対立は領域判断の差異を反映し,慣習領域で最も多く生じていた。これらの結果は,Smetana,J.の結果と同様,大学生の年代の親子においても,慣習領域の認識に世代差のあることを示している。 (2)学校場面における教師権威の概念について、教師、社会人、高校生、大学生、合計280名を対象に調査を行った。その結果、高校生も大学生も,道徳と慣習領域において教師の権限を認める傾向のあること、個人領域では自己決定意識を持つこと、教師と社会人は高校生・大学生以上に子どもの自己決定を許容すると考えていることが見出された。 3年間の研究を通して,幼児期から大学生までの子どもたちは,親や教師の権威に対して盲目的に反発するのではなく,また従順になるのでもないことがわかった。子どもたちは場面の性質に応じて大人の権威を受容したり拒否したりする。個人領域の概念は幼児期に既に存在し,個人領域と慣習領域で自己決定権意識を発揮する。慣習領域での自己決定権意識は大人のしつけと対立する原因となり,この種の対立は大学生になっても続く。権威概念から見た子どもの道徳的自律はPiaget,J.とKohlberg,L.が提唱したような一次元的なものではなく,多元的な性質を有するものであることが示された。
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