今年度の研究の目的は、経済学の基本的ルールを日常の社会現象に適用可能にするための教授要因を明らかにすることにあった。取り上げたルールは「企業間に競争と価格」の関係に関するものであった。大学生にある駅間の運賃が同距離の他の駅間より低いのはなぜかという価格の差の理由を問う問題を出題した。正解は、他の私鉄と競合するためである。路線図から競争事態を読みとらなくてはならない問題条件や、それが文章で明示されていてもストーリーの中で出題される条件下では、大部分の被験者が「乗客数」や「鉄道敷設・運転経費」といったコストの差異に着目して解答した。そこでこのルールを適用可能とする要因を探るために3つの実験を行った。 実験Iでは具体的事例を用いてルールを教示し、事後テストとして上記問題を出題したが効果はなかった。用いた事例が企業の視点から書かれていた点に原因を求め、実験IIでは消費者の視点からの事例を用いてルールを教示したが効果はなかった。実験IIIではルールの記述様式とルールの適用練習という2つの要因を取り上げた。前者の要因に関しては、上記のルールを教示する群と、「価格が低いのは競争がある証拠」というように前件と後件を入れ替えたルールを教示する群の2群を設定した。その結果、後者のルールが課題解決を促進した。また適用練習も有効であった。課題解決の際に被験者が求められる推理(今回は「価格の差違」に着目して「競争の有無」を推理)の方向と、ルールの記述様式が一致している場合には、ルールの適用が促進されることが明らかになった。ルールの方向性という要因は、本研究が初めて着目しその効果を確認したものとなる。研究の一部は日本教育心理学会第41回総会で発表の予定である。また、教育心理学研究(日本教育心理学会刊)に投稿中である。
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