本研究は、従来の心理学で取り上げられることの少なかった社会科学領域の学習者の認識の実態、特に学習者が自生的に獲得した素朴概念などと呼ばれる不適切な認識を明らかにすること、及びそうした素朴概念を適切なルールの適用という観点から修正するための教授方略を解明することを目的とした。研究I〜IVで取り上げられたのは経済学領域の大学生の認識であり、そこで行われた実験や調査から以下の知見が明らかになった。 研究I コストを価格の高低の説明原理とする素朴概念が見出された。そして、このような説明原理をもつ者は、企業の「営利の追求」という目的についての認識が薄い傾向が確認された。 研究II 価格の高低をコストで説明する素朴概念を修正するための教授ストラテジーが探られた。主な知見として、適切な説明原理を「P→Q」とルール化して教授した場合に、このルールをQの原因が求められるような具体的な経済現象に適用するのは困難であることが明らかになった。そのような場合には、「P→Q」という形式のルールも同時に提示することがルールの適用を促進することが検証された。また、具体的な問題解決状況に当該ルールを適用する経験もルールの適用の促進要因になることが確認された。 研究III 被験者らは需要に着目すべき価格の規定因としてコストに着目していた。こうした素朴概念を修正するために、当該ルールの上位に位置づく企業の「営利追求」という目的を同時に提示することの効果が調べられた。実験の結果、そのような処遇が素朴概念を修正を修正するのに有効である可能性が示された。 研究IV 価格の規定因として需要に着目可能にするための教授要因が探られた。主な結果として、学習者の事前の着目要因を明確にしておくような手続きを経ると着目すべき要因の妥当性の認識が深まることが確認された。
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