本年度は3年計画の第1年次であり、主に資料収集と予備調査のデータ解析および分析を通じて、ワーク・ファミリー・コンフリクトの概念を構成することに費やされた。本年度の時点では、ワーク・ファミリー・コンフリクトをストレス・モデルにおけるストレスの結果生じる情動と位置づけ、「役割葛藤の一形態であり、組織からの要求への対処が家庭での達成を阻害し、また家庭からの要求への対処が組織での達成を阻害することから生み出される、罪障感や過重感などの情動反応」と定義し、ストレス・モデルを援用したワーク・ファミリー・コンフリクト・モデルを構成した。本モデルはワーク・ファミリー・コンフリクトの発生メカニズムおよびプロセスを扱っており、個人内的要因として(1)キャリア開発志向(2)家庭志向、環境要因として(3)組織からの要求(4)家庭からの要求、長期的結果変数として(5)仕事満足度(6)家庭満足度という6つの要因が取り上げられた。予備調査の結果、(3)組織からの要求や(4)家庭からの要求が高いと、ワーク・ファミリー・コンフリクトが高いことが示された。加えて、これらの関係は個人の(1)キャリア開発志向や(2)家庭志向の高さによって、要求の与えるネガティブな影響が大きくなってしまう場合のあることが明らかとなった。このように、本モデルは多くの要因を視野に入れる必要があると同時に、それぞれの要因が相互に影響を持つことから、そのメカニズムの解明は非常に困難をきわめると予想されるが、一定の知見を目指し、次年度の課題としてモデルの精緻化およびその検証方法の検討に取り組みたい。
|