Facilitated Communication(以下FC)の妥当性の検討を目的として事例研究を行い、FC現象が惹起される要因について検討した。主要な結果は以下のとおりである。 1.本研究の中心対象児であるB子(自閉症)は、小3(特殊学級)の頃までに担任の先生がサポートすれば、ほぼ自立して文章を綴ることができた。しかし小4の頃より家庭や学校でパニックを頻発するようになり小5の2学期に養護学校に転校してしまった。現在中1であるが、不穏な状態が持続している。FCが人格発達に寄与するかどうかという視点から長期にわたってその妥当性を検討すると、B子に関しては有害な影響を与えたかもしれないと思われ、FCによって産出された文章は、realでないことが示唆された(神野 1999)。 2.障害児教育を担当している現場の教員120名を対象としてFCに関する調査をしたところ、母親がFacilitatorの役割を果たし、文章を記述できる児童・生徒について4名報告された。従ってFC現象は、母子関係という濃厚な人間関係の中から惹起されやすいように思われた(神野 1998)。 3.身体接触を中心としたプレイセラピィが展開した事例(自閉症)について検討した。その結果、身体接触には2つの段階があり、第1段階は「一体化・融合化」といえ、第2段階は鏡像段階を経過した後に現れてくる「甘え」の身体接触であった。FC現象に関与する身体接触は、第1段階の身体接触と思われた(神野 2000)。 4.FC現象とは、Facilitatorの意志や精神内界が、主体的自己の極めて脆弱な自閉症児の心を通して表出されたものであり、身体接触を通して自閉症児の初期発達に一般的に出現する現象であろう。FC現象は、心と身体の問題が関与していると思われ、更にFC現象が惹起されるメニズムについて明確化する課題が残された。
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