研究概要 |
対人社会的行動場面で生じる感情の問題に焦点をあてて,感情とセルフコントロール能力を測定する運転適性検査を開発することとなった.従来の運転適性検査は,ドライバーの性格や態度に関する一般特性を診断するだけにとどまり,具体性に欠けるために,診断結果の活用が困難であった.診断結果をドライバーへフィードバックすることに,運転適性検査の教育的な意味が生まれる.個々のドライバーが自己の運転行動を客観的に評価できるように,検査手法を工夫する必要がある. 本研究では,投影法による手法を参考に,イラストによる場面提示を行い,ドライバーの日常の感情特性が反映されるような検査を開発した.一般ドライバーおよび若年ドライバーを対象に調査を実施したところ,感情の問題が状況性によって分類され,次の5種類の場面性が明らかになった.すなわち,他者の行動により自己の進路が遮られイライラを感じる場面,他者を待たせるなど対人的なストレスによって焦燥感が生じる場面,交通状況に適応できずに他者への迷惑を不安に思う場面,他者の不安全行動に対して不満感情を抱く場面,困っている他者を援助しようとする場面である.これらの場面性をもとに尺度構成を行った.さらに事故歴・違反歴の有無との関連性を吟味することによって,尺度の信頼性と妥当性を検討した. 事故経験者は対人的ストレスによる焦燥感を感じやすく,さらに焦りの場面で危険な対処行動をとっていることが見出された.また違反経験者は,イライラを感じさせる場面において,自己の行動をコントロールすることが難しく,危険な対処行動を選択していることが分かった.尺度の信頼性に関しては,一部の尺度で改善の必要性があったが,概ね内的整合性が確保されていることが認められた.このような調査結果から,本検査が運転適性診断に有効であることが示された.
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