本研究は、近年研究が進められている顔に関する事象関連電位(ERP)を用いて、これまで行動指標によってのみ推測してきた発達遅滞児・者の顔認知機能について、精神生理学的立場からその処理機能を具体的に時系列を追って検討するものである。本年(平成9年)度は、(1)発達遅滞児・者に本電位を用いるための最適条件を決定することを目的とした健常児・者の顔電位の検討と、(2)障害者(自閉症者)への予備的適応研究を行った。 [研究I]発達遅滞児・者に用いるための最適条件の検討対象者を健常成人として、種々のヒト顔(自己顔、既知顔、未知顔、動物顔)および物品を提示し、それぞれの刺激に対するERP反応を測定した。その結果、(1)人の顔に特異に増強するERPのN170成分と、顔の既知性に反応するN270成分を確認した。同時に、これらの電位成分は、Bruceらの顔認識モデルと対応のとれるものであることも明らかとなった。(2)障害児・者に適応するための基礎データを得ることができた。 [研究II]障害児・者(特に自閉症者)への基礎的適応研究研究Iを基に、自閉症者を対象にした予備的研究を行った。その結果、(1)障害児・者で顔関連電位が測定できることが明らかとなった。しかし同時に、対象者全員の測定ができなかったことなどから、測定法に改良の余地があることも明らかになった。さらに、(2)自閉症者の顔認知機能は、検証者と異なる可能性のあることが示唆された。 次年度においては、測定法の改良を施し、種々の障害児・者の顔関連電位の測定を行う。
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