本研究は、発達遅滞児・者、特に自閉症者の人の顔認知機能について、近年研究が進められている顔に特異に増強する事象関連電位(顔関連電位)を用いて、精神生理学的立場からその処理機能を時系列を追って検討することにあった。平成9年度は、発達遅滞児・者のための最適測定条件の検討を健常者を対象として行った。この基礎研究で得られた方法を用いて、6〜12歳の健常児を対象とした発達的検討を行った。その結果、(1)顔関連電位のN170成分は、小学生の段階ですでに観察され、加齢とともに潜時の短縮と振幅の増加が生じること、(2)児童期には顔の既知性判断に関するN270成分が未成熟の状態にあることが明らかとなった。平成10、11年度は、障害児・者(特に自閉症者)の顔関連電位の測定を行い、上記の発達的データを基に検討した。その結果、顔関連電位のN170成分については、自閉症者の場合にもその成分は惹起されたが、人の顔とそれ以外の刺激が明瞭に分離されない傾向があった。また、T5とT6の振幅の分析から、自閉症者は左右の視覚野の機能分化が十分になされていない可能性が示唆された。顔の既知性に関係するN270成分の分析から、自閉症者は、顔認識ユニットの活性化過程段階で何らかの処理困難をきたしていることも示唆された。 今後本研究をさらに進め、自閉症をはじめとする種々の発達遅滞児・者の顔認知機能を、顔関連電位を用いて他覚的に検査できる方法の開発を試みる。さらに、彼らの対人相互交渉の困難性を克服する方法についても検討を加える計画である。
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