研究概要 |
個人的責任性とは「物事が悪い方向へ進んだとき,それが自分のミスであると見なされる見込み」と定義されており,自分のミスや間違いを極度に恐れ何度も物事を確認しないと気が済まない確認強迫症状と強く関連していると言われている.本研究は,責任性と確認強迫行動の関係について,(1)個人的責任性の増大により,失敗・ミスの結果,到来を予想される自体の嫌悪性が高いと評価されるようになるか,(2)直面する自体の嫌悪性が高いと評価することで,不安・懸念・不快感が高くなるか,の2点について検討を加えるものである. 平成9年度では,特に第(2)の点について,不安・懸念・不快感の生起が自体の嫌悪性の評価という認知的な変数の関数であることを実験的に明らかにすることを目的とした.具体的には,個人的責任性が高いと考えられる自己関与の高い状況とし,嫌悪条件づけ事態を設定し,無条件刺激の嫌悪性の評価を操作することで,不安・懸念・不快感を反映する条件反応の強度の変化を検討した.その結果,到来を予期した自体の嫌悪性を高く評価すると不安・懸念・不快感の強度が高まり,事態の嫌悪性を低く評価すると不安・懸念・不快感の強度が低くなることが明らかになった.これらの結果は,事態に対する嫌悪的評価という認知的な変数の影響により,不安・懸念・不快感が高まる可能性があることを示唆しており,認知的な評価が確認強迫症状の生起に影響する過程の一部が明らかになった.現在は,個人的責任性を直接操作し,予期される失敗事態の嫌悪性の増大や確認強迫症状との因果関係を検討している.
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