研究概要 |
「個人的責任性(pivotal responsibility)」という性格特性は,強迫神経症のうち,特に確認強迫(checking)に強く関連していると考えられており,先行研究において,強迫者・強迫傾向者の病前性格および現在の性格特性と,その強迫症状との関連の検討がなされている(例えば,Eysenck,Barrett,Wilson & Jackson,1992;Frost,Marten,Lahart & Rosenblate,1990;Scarrabelotti,Duck & Dickerson,1995).しかしながら,多くの報告は,個人的責任性を中心とする特定の性格特性(個人的責任性,リスク回避,完全主義など)と強迫症状との関連検討に留まっており,強迫神経症に関連する性格特性を内包している構造的な性格次元が強迫症状に与える影響の検討は乏しいと考えざるを得ない. 平成10年度では,強迫症状に影響する性格次元及びその性格次元に内包される性格特性について検討することを目的とした.具体的には,医師の協力を得て,強迫神経症患者の病前性格の構造及び明らかになった性格次元と現在の強迫症状の程度・種類・治療効果との関連について検討を行った.その結果,(1)神経症傾向次元は強迫観念の程度に関連するものの,他の強迫症状との関連は見出せなかった,(2)神経症傾向次元は強迫症状の併発性に間接的に寄与していること,の2点が明らかになった.これらの結果は,確認強迫行為の規定因の1つとして個人の性格特性を考慮するときに,神経症傾向次元のような性格次元の構造的影響よりも,個人的責任性を中心とした特定の性格特性が確認強迫行為の生起に寄与している可能性が高いことを示唆している.
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