語情報処理は、形態と音韻と意味の3部門が複雑に織りなすネットワーク上で展開される。本研究では、部分的・断片的ながら、その情報処理のメカニズムを明らかにした。第1に、2文字漢字有意味語・無意味語の語彙判定課題において、連結価(ほかの漢字と連結して語が形成される数)が反応潜時を決定するという結果を得た。第2に、有意味度の高い漢字の事象関連電位を測定し、N400を観察した。第3に、簡単な高頻度語について、音読潜時と翻訳潜時を測定し、意味接近と音韻接近の時間差を推定した。第4に、Yamazaki et al.(1997)の漢字語の音読反応潜時のデータの再分析を行い、頻度よりも学習時期(Age-of-Acquisition)が決定要因であるとする結論に対して、学習難易(Ease-of-Acquisition)が最重要要因であるという結論を示した。第5に、国立国語研究所(1988)による中学生と高校生の常用漢字学習率のデータを再分析し、英語圏における成人の獲得性深層難読症に類似した、意味的誤り、視覚的誤り、形態素の誤りの生起率が高いことに注目しながら、漢字の情報処理の特徴を考察した。第6に、2通り以上の読み方がある漢字の音読潜時を測定し、2つの音韻情報が競合し、音読を遅らせるケースと競合せずに干渉が起こらないケースがあることを示し、すべての漢字がこれらの間に位置づけられるという結論を得た。以上、6点の具体的な内容と成果はそれぞれ個別に国際誌に発表した。
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