研究概要 |
平成12年度の研究成果 平成11年度は、科学研究費を獲得してから3年間の集大成というべき著書『絵本の心理学-子どもの心を理解するために-』(新曜社)と、それに2,100冊の絵本データを入力した「絵本データベース」(CD-ROM)を出版した。幸い、この著作は5つの新聞と2つの雑誌で書評として取り上げられた。 最終年度である平成12年度は、絵本の中の父子関係に焦点を絞り研究を行った。「絵本データベース」で「父」を単独検索したところ578冊(未翻訳英語版絵本67冊を含む)が得られた。今回の研究では、主題「父」と主人公の年齢層が小学校低学年までをクロス検索し、そこで得られた422冊(53冊)を分析対象とした。抽出された絵本は、13種類の分類項目に分けられたが、本研究においてはとりあえず(1)「育児・家事をする父親」、(2)「子どもと遊ぶ父親」、(3)「生き方を考えさせる父親」の3視点より分析・考察を行った。 (1)の分野では圧倒的にアメリカ・ヨーロッパの絵本が、新しい父親像を生み出していた。20世紀の後半に生まれた新しい文化とフェミニズムの思想を背景に、日常生活の中でも正面から子どもに向き合い、家庭においても存在感のある父子関係が描き出されていた。特に北欧のものは、アメリカのそれに比べ絵も力まず、淡々として家事・育児をこなす父親が描かれている。 (2)(3)のジャンルでは、ジョン・レノンの『リアル・ラブ』を除き、古くからある子ども達に残し続けたい父親像の伝統を引き継ぐ絵本が多い。残念ながら、わが国の父子関係を描いた絵本には、新しい父親像を描いたものも、伝統的なものもほとんど存在しなかった。
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