研究概要 |
平成11年度は、科学研究費を獲得してから3年間の集大成というべき著書『絵本の心理学-子どもの心を理解するために-』(新曜社)と、それに2,100冊の絵本データを入力した「絵本データベース」(CD-ROM)を出版した。幸い、この著作は5つの新聞と2つの雑誌で書評・論評として取り上げられた。具体的成果としては、1)発達心理学を実体あるものとして構築するためには、「発達」なるものの歴史的・文化的概念をどのようにして隣接する学問体系から移入できるかが重要であるが、絵本はとりわけ自己概念・感情・遊びなどの抽象性の高い「発達」の質を分析する上で、優れた文化財であることが立証できた。2)絵本は目には見えないが確実に存在する「ごっこ遊び」(空想遊び)の内的世界の構図を「事実に根ざして」巧みにすくい上げ描いている。「データベース」より抽出した「空想遊び絵本」を分析し「表象の反転現象」という新しい述語を創出した。3)子どもの自己確認に関する絵本を「データベース」より抽出し、自己像の確立に「自然体験」「ぬいぐるみなど愛着物」「葛藤体験」などが重要な関わりを持つことを考察した。 平成12年度は、絵本の中の父子関係に焦点を絞り研究を行った。「育児・家事をする父親」の分野では圧倒的にアメリカ・ヨーロッパの絵本が、新しい父親像を生み出している。20世紀の後半に生まれた新しい家族思想を背景に、日常生活の中でも正面から子どもに向き合い、家庭においても存在感のある父子関係が描き出されていた。「子どもと遊ぶ父親」「生き方を考えさせる父親」の分野では、古くからある子ども達に残し続けたい父親像の伝統を引き継ぐ絵本が多かった。残念ながら、わが国の父子関係を描いた絵本には、新しい父親像を描いたものも、伝統的なものもほとんど存在しなかった。現在2,800冊の絵本が「データベース」化されている。
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