アジア地域を対象とした原風景の調査を行うことを目的とした本研究で、現在までに次のような研究を行った。 1)原風景研究のレビューおよび理論・概念の整理:心理学、文化人類学、文学、地理学、精神分析学などの多領域において原風景をキーワードとした研究を概観し、原風景の構造に関する理論の整理を試みた。 2)日本の青年・成人における原風景の構造分析:絵地図を中心とした表出によって原風景の空間構造について内容分析を行った。現在、500程度のサンプルでの結果の集約を行っている。 3)韓国の成人を対象としたインタビュー調査:原風景の「語り」に注目して、子ども時代の体験や風景を「語る」アプローチ法を用いて、語り手の感情・意味づけ・評価を捉えている。原風景を語る際の語り構造と風景との関連を検討した結果、そこにはいくつかの語りのタイプと語りにおける一貫性が見られ、語りの際に語り手のアイデンティティが原風景とかなり関係していることが明らかになった。 4)トルコにおける絵地図調査およびフィールドワーク:イスタンブールの路上の商店ではたらく人々を対象として現地での聞き取り調査、絵地図法などいくつかの手法を試み、エスノグラフィーを準備している。 今後は、2)の韓国におけるインタビュー調査の結果をもとに、構造化した質問紙を作成し、調査対象数を増やして、韓国における原風景の構造を個人レベル、共同体レベルで明らかにする研究を主体にすすめていく。また、共同体のレベルでの原風景を具体的に集約する手法として、絵本、昔話、教科書に出てくる典型的な風景を析出する原風景イメージの分析を進める計画である。
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