アジア地域を対象とした原風景の構造に関する理論的整理と実証的研究を行うことを目的とした本研究で、平成9〜11年度の3ケ年に渡り次のような研究を行った。 研究(1)「アジア的原風景」という概念を用いてこの地域の社会文化的生活世界の基層部を探る研究アプローチの理念と意義について考察した。 研究(2)原風景研究のレビューおよび理論・概念の整理:心理学、文化人類学、文学、地理学、精神分析学などの多領域において原風景をキーワードとした研究を概観し、原風景の構造に関する理論を整理し、新たな構造モデルを提案した。 研究(3)韓国の成人(11名)を対象とした深層インタビューの逐語録に基づいて、「語り」の様式に注目した構造分析を行った。語りに現れる原風景の構造を分析するための概念として「語りの種類」、「語りの様式」を区別し、個人単位でのモデル化を行った。 研究(4)韓国の成人を対象とした個人インタビュー及びグループインタビューのデータを基に、とりあげられた原風景を構成する空間要素を分類し、カテゴリーを作成すると共に、写真集等の資料からそれぞれのカテゴリーを代表する典型的な風景映像を抽出した。 研究(5)日本の青年・成人における原風景の構造分析・絵地図を中心とした表出によって原風景の空間構造について内容分析を行った。研究(3)(4)で明らかにされた原風景の構成次元、カテゴリーおよび空間特性を用いて、韓国と日本の原風景の構造の比較を行った。 上記の結果を総合化し、原風景の基礎構造について心理学的な観点からアプローチし、「原風景現象」が文化的に構成されることを、ミクロな相互作用の分析、特に語りの分析を通して明らかにしたことが本研究の主要な成果である。また、原風景を空間的構造としてとらえていく方法論として写真データを用いた記述分析を行い、今後の展開への手がかりを得たことも成果と考えられる。
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