研究概要 |
平成9年度は、児童期の分離経験として心理的影響をもつ可能性のある学童集団疎開経験の内容の洗い出しのための準備作業を行った。まず、公刊されている経験者の回想を含む諸記録の内容の分析と、東京都内の小学校(国民学校)在校時に学童集団疎開経験をもった者への面接調査を試み、また集団疎開学童の受入れ側である寺社,旅館、行政関係(教育委員会等)の記録の中から当時の疎開学童の生活の実態、集団疎開児童に関する諸記録の収集を行い、基本的な作業仮説の構築を試みた。対照群としては、学童集団疎開経験をもたない人々の自伝的回想録をもとに、児童期の人間関係に係わる経験のもつ意義の考察のための資料の収集を試みた。 すべて事例研究的に考察されるべき性質の資料であるとともに、各地に散らばっている経験者の面接に多大の時間を要し、当初から4年計画で行われているが、現段階では中間的な報告にとどまる。しかし、これまでのところ、学童集団疎開時に今日の「いじめ」に近似した現象が見られること、その「いじめ」発生の機制には、児童が集団的な日常生活において、超個人的相互依存的役割を分担せざるを得なかったか否かが多分に影響していること、また「いじめ」の経験は、「いじめ」られるよりも「いじめ」た経験が一層深刻な経験として想起され、それが成人後も当時の人間関係のネットワークへの参加を抑制する要因となっている可能性があること等が示唆された。これが、家族との分離経験と如何に交絡しているか、また、成人後の行動にいかなる影響を及ぼしているかは、さらに多くの事例の収集をまって検討する予定である。
|