この研究は、太平洋戦争中の学童集団疎開を児童期の家族との分離経験ととらえ、成人後の社会性等への影響を明らかにしようと試みたものである。 平成12年度は、東京都内の国民学校2校に昭和16年以降に在籍していた者で住所の手掛かりのある者を対象に郵送による調査を実施した。 あわせて、昭和初期、中期に小学生時代を過ごした幅広い世代を含む者を対象とした生活の回想を聞き取りによって収集した。 なお、郵送調査は関係有志によって個人的に作成されていた同窓生名簿を借用したため住所の再確認などに時間を要し、現在も可能な限り資料数を増加させる努力を行なっている。 これまでに一部分析が進行したものから暫定的なまとめであるが、(1)学童集団疎開時にも現在言われている「いじめ」の現象があり、「いじめ」の発生の機序の理解のためには児童相互の関係の背景にある生活の状況を考慮する必要があることが示唆されるとともに、「いじめられた経験」と「いじめ経験」が成長後への影響を考える場合、いじめ経験が予想以上に本人のこころの重荷になる可能性があること、(2)これまでの発達研究ではほとんど論議されていない問題として、児童期の経験は予想以上に成人後の対人態度等に影響を及ぼしている可能性があることなどが示唆されている。
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