本研究計画は、今日の日本の国際化、多文化状況の中での異文化児を巡る問題に焦点を当てた一連の研究の発展である。理論的背景としては異文化児/者の日本文化への一方的適応ではなく双方向的社会文化的認識発達の可能性の検討を行っている。平成9-10年度の研究では、同一地域内で家庭と学校、地域、メディアの4種のフィールドに分け、それぞれのフィールドに関わる人々の異文化や自己文化の認識の2年間に渡る社会的構成過程を明らかにする。研究方法は引続き、マクロな観点からの社会的関係分析アプローチとミクロな観点からの認知過程分析アプローチを併用する。前者では異文化児を巡る社会的ネットワークおよび社会的相互作用行動の分析を聞き取り資料及びビデオ分析によって行い、後者では異文化性に関する意識調査およびビデオの微視分析を行う。結果から、日本における子どもの異文化接触の問題に対処するには、単に異文化児の適応という一方向的観点ではなく、日本児や教師の祉会文化的認知の変容を含む双方向的観点からの教育や環境整備が必要であること、及びその内容を実証的に明らかにしたい。現在までの結果から、1、家庭での調査では、各家庭の養育者による日本文化の受容傾向の差によって、コミュニケーション様式に差が生じるにもかかわらず、子ども自身のコミュニケーション様式選択の影響が次第に深まる傾向がみられる。2、学校での調査から、子どもの選択は友人関係を媒介にしたメディアの影響を強く受けているほか、家族以外の大人(小学校日本語補習クラスの教師、ボランティア)も外国籍生徒へのメディア情報の伝達を意図の有無によらず行っていることが分かった。今後さらに、日常的に接するメディア(テレビ、雑誌、映画等)における異文化、自己文化に関わる情報の分析と、実際の子どもの言動への影響関係を調べ社会文化的認識発達に関わる条件を明らかにする。
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